根抵当権のついた土地建物にご注意ください
事業再構築補助金では、建物の建設や改修が対象経費となっております。
しかし、その土地や建物に『根抵当権』が設定されている場合は注意が必要です。
今回は、事業再構築補助金の根抵当問題について、私の経験を交えて解説していきます。(かなりややこしいのですが、なるべく分かりやすように解説いたします。)
記事の後半では『担保権設定申請承認書』の書き方も解説いたします。
根抵当権が設定されている場合は、原則補助金対象外となる
土地や建物に『根抵当権』が設定されていますと、原則補助対象外となります。
その理由を簡単にいいますと、補助金を使って改修した建物に第三者の担保権が設定されてしまい、補助金を使って導入したものが『補助事業以外の目的で使用される』可能性があるからです。
ただし『補助事業の対象となる例外』もあります。
それでは下記の3つのパターンについて見ていきましょう。
- 補助対象となる場合
- 補助対象となる可能性がある
- 補助対象外となる
補助対象となる場合:
①所有物件ではなく賃貸物件の場合
②50万円(税抜)未満の物件
補助対象となる可能性がある:
①根抵当権ではなく、抵当権が設定されている。
②補助事業着工前に根抵当権が設定されていたが、追加担保差入条項はない(もしくは削除できる)
③すでに根抵当権が設定されている建物に、改修を加える。
補助対象外となる:
①補助事業着工後に根抵当権を設定している
共通:
例外と認められるには、担保権設定の理由が『補助事業遂行のための必要な資金調達をする場合』である必要があります。
補助対象となる場合
①賃貸物件は大丈夫
補助事業を行う建物及び土地が、賃貸物件であれば、補助対象となります。
賃貸物件であれば、被担保権者は第三者ということになります。
ですので、賃借人である補助事業実施者は、その担保権に関与することはできません。(担保権を外してくださいとは言えませんので。)
賃貸物件まで補助対象外となってしまうと、ほとんどの補助事業が対象外となってしまうでしょうから、この対応にはホッといたしました。
②50万円(税抜)未満の物件
補助事業により建設した施設等の財産が50万円(税抜き)未満の物件に関しては、問題とされないようです。
その理由として、「財産処分制限」の規定が定められているからです。
下記の事業再構築補助金_公募要領の「財産処分制限規定」では、単価50万円(税抜き)以上の財産を「担保に供する処分」する場合は、事前に事務局の承認を受けなければいけないと記載されています。
この規定があることで、担保権の設定が補助対象外となる可能性が発生してしまいました。
取得財産のうち、単価50万円(税抜き)以上の機械等の財産又は効用の増加した財産(処分制限財産)は、処分制限期間内に取得財産を処分(①補助金の交付の目的に反する使用、譲渡、交換、貸付け、②担保に供する処分、廃棄等)しようとするときは、事前に事務局の承認を受けなければなりません。
事業再構築補助金_第9回公募要領より
補助対象となる可能性がある
①抵当権である
設定されている担保権が、根抵当権ではなく『抵当権』であれば、補助対象となる可能性があります。
可能性があるとは、「担保権設定承認申請」という書類を出して審査を受けてみないと分からないからです。
「担保権設定承認申請」は交付決定後にしか出せませんので、それまでは補助対象外になる可能性も考慮して計画を進めていかねばなりません。
特に事前着手にて進めている場合は、どっちに転ぶか分からない状況で計画を進める必要があります。
ただし、私が関わった案件では「抵当権」であれば、すんなり補助対象となりました。(あくまで一例としてお考えください。)
ですが、事業資金の借入の場合は根抵当権であることがほとんどだと思います。
自宅ローンであれば抵当権でしょうが、事業目的の担保で
「うちは抵当権設定だったから、良かった。」
という事はほとんどないのではないでしょうか?
②新築予定地に追加担保差入条項がない
「追加担保差入条項」とは、すでに根抵当権が設定されている土地に、後日新たな建物が建った際に、「それらに対しても根抵当権が及びます」という契約条項になります。
この「追加担保差入条項」があるかどうかは、契約内容次第ですので、契約書を確認してみてください。
もし「追加担保差入条項」 があった場合は、この条項を削除してもらわないといけません。
この条項がなければ、「担保権設定承認申請」を提出して、審査の結果、補助対象経費となる可能性があります。
以前の公募要領では「追加担保差入条項」の削除は、新築と建物の改修のどちらの場合も求められていましたが、第9回の公募要領では、「新築」のみ削除が必要となっているようです。(建物改修についても求められる可能性はありますので、必ず確認してください。)
根抵当権に関する制約は変更が多々ありますので、常に最新の公募要領をご確認ください。
③すでに根抵当権が設定されている建物に、改修を加える
これから改修する建物に、すでに根抵当権が設定されている場合は、改修完了までに「担保権設定承認申請」を提出して、審査を受けなければいけません。
順番が非常に大切です。
次の項目で解説しますが、『改修着工後に根抵当権を設定』している場合は、補助対象外となります。
『根抵当権設定』→『着工』→『担保権設定承認申請』→『改修完了』
という順番を守る必要があります。
また、『極度額の増額』も、着工後はできません。
補助対象外となる
①補助事業着工後の根抵当権設定
補助事業に着工した後に、根抵当権を設定していた場合、補助対象外となります。(事前着手の場合は、こういう事がありえると思います。)
この場合にできる事は、根抵当権を抵当権に変更することですが、借入先の了承が必要となりますので、うまく説得できるかが問題でしょう。
会社の命運を左右するような場合は、なんとしても説得する必要があります。
補助金を受領できるかは、資金繰りにも大きく影響しますし、結局は返済にも影響が及ぶことにもなります。
その事を借入先に丁寧に説明すれば、抵当権への変更も可能かとは思います。
根抵当権を抵当権に変更する際の費用
ちなみに根抵当権を抵当権に変更するには、『変更』ではなく『従前の契約を解除』して『新たな金銭消費貸借契約を結ぶ』というような形になります。
登記申請においても、一旦『根抵当権を抹消』して、新たな『抵当権を設定』することになります。
登記の登録免許税と、司法書士への報酬も含めると費用は少なくとも10万円〜ほどはかかることになりますが、補助金額に比べれば大したことはないでしょうから、やる価値は十分にあると思います。
注意点
担保権が認められた場合でも、注意するべき点があります。
①担保権実行時には国庫納付が必要
もし、(返済が滞る等で)担保権が実行されてしまった場合は、国庫納付が必要となります。
一体いくらの国庫納付すればよいのかは記載がないので分かりませんが、おそらく上限は補助金額になるかと思います。
担保権が実行された上に、補助金の返還まで発生してしまうと踏んだり蹴ったりですから、補助事業の事業計画は入念に作成しておく必要があります。
補助事業により建設した施設等の財産に対し、抵当権などの担保権を設定する場合は、設定前に、事前に「様式第11 担保権設定承認申請書」を事務局に提出し承認を受ける必要があります。補助事業遂行のための必要な資金調達をする場合に限り、担保権実行時に国庫納付をすることを条件とし、認める場合があります。(事後承認はできません。)
事業再構築補助金 補助事業の手引き(令和 4 年12 月)より
②概算払いができません
事業再構築補助金では『概算払い』という、一部の補助金を先に支給してもらえる制度があります。(既に支払いが終わっている部分の補助金の9割を限度に先にもらえる制度。)
しかし、概算払いでは下記の場合には請求ができない事になっております。
・交付決定時(計画変更承認時)に建物費を計上されており、かつ建物の改修であり、かつ改修対象の建物に抵当権等の担保権が設定されている場合。
事業再構築補助金 補助事業の手引き(令和 4 年12 月)より
ですので、担保権が設定されている建物に改修を行う場合は、概算払い請求ができないことになります。(抵当権でも不可です。)
ここでさらに注意点なのですが、『概算払い請求できないのは担保設定された建物費の分だけでなく、他の費用もできない』ということです。
「え、関係ない機械の購入費も概算払いできないの?」
と思われるかもしれませんが、私が関わった案件では『できませんでした』。
その理由は『担保権を設定して補助事業に必要な資金をすでに確保しているので、同じ目的(資金の確保)である概算払い請求はできない』とのことです。
うーん、言ってる事は分かりますが、補助事業遂行に必要な資金を担保権設定で全て確保できるとは言えないわけで、なんだか納得のいかない理由です。
しかし、そのように規定されているのであれば従うしかありません・・・。(今後変更になる可能性はあるので、概算払い請求の検討時には事務局に確認するようにしましょう。)
根抵当権とは
ここで改めて『根抵当権』について解説しておこうと思います。
すでに分かっている方は飛ばしてお読みください。
根抵当権と抵当権の違い
根抵当権と抵当権は、どちらも担保権の一種ですが、その違いをかなり簡単に言いますと
- 根抵当権→借入を何度も行うのに便利
- 抵当権→1回だけの借入に便利
という事になります。
抵当権とは
抵当権とは簡単に言いますと、債務の返済が完了されたら、抹消される担保権です。
例えば、住宅購入のお金を借りるために、その住宅を抵当権に入れて、お金を借ります。(お金の返済中にその住宅に住めるのが抵当権の特徴です。これは根抵当権も同じです。)
返済が完了すれば、抵当権は消えますし、返済できなければ抵当権が実行されて、住宅は競売にかけられます。(抵当権が消えるといっても勝手に消えるわけではなく、抹消登記をする必要があります。同じく設定時にも登記が必要です。)
根抵当権とは
一方、根抵当権では債務の返済が完了しても、抹消されません。(極度額以内ならですが、やや難しい話ですので一旦置いておいて大丈夫です。)
ですので、返済が完了しても、すぐに次の借入を行うことが可能です。(抵当権のように登記したり抹消したり、しなくてよいということです。)
※他にも細かい違いはありますが、逆に分かりにくくなってしまいますので、説明は省きます。
事業を行う時は、継続的に何度も借入をする事が通常ですので、事業においては『根抵当権』を設定する方が便利なのです。
担保権設定申請承認書の書き方
それでは『担保権設定申請承認書』の書き方を説明していきます。
担保権設定申請承認書の提出タイミング
担保権設定申請承認書はいつ出すのかといいますと、『交付決定後』の提出タイミングとなっております。
ですので採択されたといっても、まだ根抵当権問題は解決されておらず、交付決定しても解決されていません。
不安な状態が長く続きますが、とにかく手続きを進めていくしかありません。
また、『担保権』についての問題がある事を『事業計画書に記載しておく』ように事務局が求めることがあります。
私が関わった案件でも「事業計画書にその事を記載していましたか?」と事務局に聞かれました。
そのような記載が必要な事は知りませんでしたので、記載していなかったのですが、結果的には『記載していなくても承認はしてもらえた』ので、必須かどうかは定かではありません。
公募要領にもその事は記載されていませんので、必須ではないと信じたいですが、心配であれば記載しておいても良いかと思います。
ただし、その記載が採択に影響を与える可能性も否定できませんので、慎重な判断が求められます。
担保権設定申請の必要書類
担保権設定申請には下記の書類提出を求められます。
- 様式第11(担保権設定承認申請書)
- 被担保権に係る金銭消費貸借契約証書の写し
- 当該所得財産等を目的とする担保権設定契約証書等の写し
様式第11(担保権設定承認申請書)
様式第11(担保権設定承認申請書)は、電子申請システムからダウンロードするエクセルファイルです。
※電子申請システムとは、事業再構築補助金HPの電子申請ページのことです。(GビズIDでログインします。)
様式第11(担保権設定承認申請書)の入力はそれほど難しくありませんし、記載要領もセットになっておりますが、一応解説しておきます。(2023年3月時点)
以下、項目ごとの記載方法です。
区分
経費区分のことです。
プルダウンで「建物」か「機械・装置・工具・器具」を選択します。
財産名
建物の場合は、財産名を記載します。(交付申請時に記載した店舗名等です。)
機械の場合は、「機械名+型番」を記載します。
事業実施場所所在地
事業実施場所の住所を記載します。
品目が建物の場合
プルダウンで「新築である」か「改修である」を選択します。
建物でない場合は「建物でない」を選択します。
取得年月日
新築の場合は、建物の引渡し(予定)日を西暦で記入します。
改修の場合は、改修完了(予定)日を西暦で記入します。
取得価格
新築の場合は、建物の取得価格を記載します。
改修の場合は、改修費用を記載します。
担保権設定予定日
新築の場合は、建物に担保権を設定する予定日を記載します。
改修の場合は、建物に担保権の効力が及ぶ予定日を記載します。(通常改修完了予定日となります。)
担保権の種類
プルダウンで「抵当権」「根抵当権」「その他(手入力)」から設定します。
その他(手入力)の場合は、担保権名を入力します。
担保権者
担保権を有する金融機関名等を記載します。
債権者
借入先の金融機関名等を記載します。
債務者
借入される事業者名を記載します。(通常は申請者となります。)
契約締結日
新築(抵当権及び根抵当権)の場合、債権者との金銭消費貸借契約日を記載します。
改修(抵当権)の場合、債権者との金銭消費貸借契約日を記載します。
改修(根抵当権)の場合、根抵当権設定日を記載します。
貸付実行日
新築(抵当権及び根抵当権)の場合、借入予定日を記載します。
改修(抵当権)の場合、借入予定日を記載します。
改修(根抵当権)の場合、根抵当権設定日を記載します。
債権額
新築(抵当権及び根抵当権)の場合、借入金額を記載します。
改修(抵当権)の場合、借入金額を記載します。
改修(根抵当権)の場合、根抵当権極度額を記載します。
資金用途
新築(抵当権及び根抵当権)の場合、建物建築費用等を記載します。
改修(抵当権)の場合、建物改修費用等を記載します。
改修(根抵当権)の場合、根抵当権設定時の借入にかかる資金用途を記載します。
以上で、担保権設定承認申請書の記載は完了ですが、気を付ける箇所は『資金用途』かと思います。
ただし、ここが間違っていた(認められない書き方をしていた)場合でも、事務局からの指摘で修正は可能かと思いますので、まずは記載して提出してみることが大事だと思います。
審査はいきなり『イエス・ノー』を付きつけられるわけではなく、不備があれば指摘してもらえるはずですので、まずは提出してみましょう。
被担保権に係る金銭消費貸借契約証書の写し
この書類は『担保権設定承認を受けた後』に提出が必要となります。
しっかりと保管しておきましょう。
当該所得財産等を目的とする担保権設定契約証書等の写し
この書類も、『担保権設定承認を受けた後』に提出が必要となります。
担保権設定契約証書については、変更(追加担保設定、共同担保設定等)があった場合には、各種変更契約証書等が存在する場合は、提出が必要となります。
担保権設定申請承認書の提出方法
担保権設定申請承認書はJグランツより、GビズIDでログインして提出します。(交付申請と似たような方法です。)
やり方はJグランツ入力ガイド(操作マニュアル_事業者用−担保権設定承認申請)をご覧いただくと良いかと思います。
『事業再構築補助金HP』の「採択後の流れ・資料ページ」の「交付申請(「Jグランツ」入力ガイド)」の「Jグランツ入力ガイド(ZIP)」の中にあります。
まとめ
以上のように、根抵当権についてしっかりと調べておかないと、結果的に補助金がもらえなかったというような最悪なことにもなりかねません。
十分に調べてから、補助金申請を検討することをお勧めいたします。
また、根抵当権が設定されているからといって絶対に補助対象外となるわけではありません。
タイミング等が重要となりますので、しっかりと検討されてみてください。
補助金に関すること、
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(※経産省の補助金が主となります)
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