結論

補助金申請における書類作成は行政書士しかできないのか?
という問題に対して法律上の結論としては下記のようになると考えていただいて良いと思います。
※あくまで分かりやすく表現しておりますので、参考程度にお考えください。

  • 行政書士  ➡️相談、助言、作成、提出が可能
  • 行政書士以外➡️相談、助言、提出が可能

つまり、書類の作成に関しては行政書士のみができるということになります。
(正確には弁護士も可能だと考えられますが、補助金申請専門の弁護士はほとんどいないかと思いますので、当ページでは表記を省略します。ただし「行政書士のみ」という表現には「プラス弁護士」という意味を付け加えてお読みください。)

ただし、この理由を理解するためには、整理しておくべき論点が、まず2つほどあります。

まず確認しておきたい論点2つ

先ほど、「補助金の書類の作成に関しては行政書士のみができる」と述べましたが、ここで疑問が生じた人も多いかと思います。

「他の多くのサイトに『補助金の申請代行は誰でもできる』と書いてあるけどな・・・?」

ここで整理しておきたい点は以下の2点です。

  • 申請代行とはどのような業務のことを指すのか?
  • 法律に違反するのか、それとも補助金独自の規制なのか

申請代行とはどのような業務?

補助金の申請代行は誰でもできる(資格は不要)』と聞いて、その申請代行の業務内容に、どのような印象を持つでしょうか?

「事業計画の書類作成を手伝ってもらい、申請までしてもらう」というようなイメージを持つかもしれません。
もちろん、それも間違いではないですが、多くのサイトで記載されている『補助金の申請代行は誰でもできる』の場合の申請代行とは、『申請行為のみ』を指す言葉であると考えていいでしょう。

つまり、『提出行為のみ』ということです。
紙の申請であれば、『出来上がった申請書類を代わりに提出する』ことであり、電子申請の場合は『出来上がった申請書類を代わりに提出する』ことになるでしょうか。(電子申請の際に必要項目を入力する行為は、書類作成にあたる可能性もありますので、ここでは最後の申請ボタンを押して送信する行為と仮定します。)

ですので、『書類の代理作成業務』は、多くのサイトで記載している『資格不要の申請代行』には含まれていないと考えられます。

補助金の申請支援を大きく3つに分けみると

  • 相談・助言
  • 書類作成
  • 提出

となりますが、この中で代わりに業務として行うことを法律で規制しているのは『書類作成のみです。(詳しくは後述します。)
ですので、『相談・助言』と『提出の代行』は法律違反とはなりません

それゆえに多くのサイトでは『補助金の申請代行は誰でもできる(資格不要)』と謳っているのだと思います。
しかし、申請代行と聞いて「書類の作成代行もしてもらえる」というイメージが湧く人もいるでしょうから、正確性に欠けた表現と言えるでしょう。

法律に違反するのか、それとも補助金独自の規制なのか

ここでもう一点、整理しておきたい点が『法律に違反するのか、それとも補助金独自の規制なのか』という点です。

先ほどの『書類作成の代行は行政書士のみができる』とか『提出には資格が不要』といった話は、法律上の話です。(詳しくは後述します。)

しかし公的補助金では、それぞれに独自の規制を公募要領で設けていることが多く、『法律違反とはならないが、審査対象外となる恐れがある』行為が設定されています。(法律で認められている独占業務を内規で規制してよいのか?という疑問は生じますが)

例えば、事業再構築補助金では『電子申請は本人しか行えず、代理申請は認められていません』。(代理と代行の違いという問題もありますが、おそらく、代理と代行含めて本人以外が電子申請で必要項目を入力したり、申請ボタンを押す行為のことを禁止していると思われます。)

つまり、事業再構築補助金では『電子申請(申請ボタンを押す行為)を代理してもらうと法律違反ではないが、審査対象外となる恐れがある』ということです。

このように、法律の確認はもちろん大切ですが、各補助金ごとの独自の規制も把握して、支援者との連携を取っていく必要があります。

そもそも行政書士とは?

それでは、そもそも行政書士とはどのような資格なのでしょうか?
きっちり説明すると難しくなってしまいますので、ここではイメージしやすい様にざっくりとした言葉で表現します。

行政書士とは報酬を受けて、官公署に提出する書類を作成することができる資格です。(その他にもありますが、今回は省略します。)

※官公署とは国や地方公共団体の組織のことです。

つまり、官公署に提出する書類を報酬を受けて作成するには資格が必要だということです。(ご存じなかった方も多いかもしれません)

※無報酬であれば作成は可能です。(例えば家族の提出書類を作成する等)
※他の業務で報酬を受けて、書類作成部分のみを無償にすることは脱法行為となります。(例えば事業計画書作成相談で報酬をもらい、書類作成代行は無償で行うという建前)

ですが、行政書士といえども全ての官公署に提出する書類を作成できるわけではありません。
他の士業(税理士、司法書士、社労士等)の独占業務と定められているものは、行政書士も作成不可となっております。(例えば税務署への税務申告は税理士、厚労省提出書類は社労士等)

以上がざっくりとした行政書士資格についての説明となります。具体的にどんな業務ができるかは細かい規定や業際問題がありますので、あくまでイメージを掴む参考程度にお考えください。
下記は上記の事を定めた行政書士法の抜粋となります。

(業務)
第一条の二 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。

(業務の制限)
第十九条 行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第一条の二に規定する業務を行うことができない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について、当該手続に関し相当の経験又は能力を有する者として総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合は、この限りでない。
2 総務大臣は、前項に規定する総務省令を定めるときは、あらかじめ、当該手続に係る法令を所管する国務大臣の意見を聴くものとする。

第二十一条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一 行政書士となる資格を有しない者で、日本行政書士会連合会に対し、その資格につき虚偽の申請をして行政書士名簿に登録させたもの
二 第十九条第一項の規定に違反した者

行政書士法(令和元年法律第七十一号による改正)

補助金申請書類の作成は行政書士の独占業務範囲?

それでは補助金申請における書類作成は、行政書士の業務範囲となるのでしょうか?
補助金は種類ごとに管轄が違いますが、「事業再構築補助金」「ものづくり補助金」「小規模事業者持続化補助金」は経済産業省所管であり、他の士業の独占業務と規定されていませんので、行政書士の独占業務範囲であるといえるでしょう

※厚生労働省が管轄する、いわゆる「助成金」は社会保険労務士の独占業務であり、行政書士による書類作成はできません。

※労働者名簿や賃金台帳が補助金の提出書類となっている場合、これらの書類作成は社会保険労務士の独占業務であるため、行政書士でも作成することはできません。

ただし独占業務範囲と言いましても、「書類の作成」においてであり、「相談・助言」「提出」は資格がなくても誰でも可能です。
しかし、「提出」に関しては補助金独自の規定で代行ができない事も多いですので、注意してください

この点につきましては、『総務省の公式見解』が出されておりますので、一部抜粋いたします。

5.確認の求めに対する回答の内容
(1)
照会書に記載された事業活動を前提とした場合、照会者が実施しようとする経営革新計画等の申請や補助金申請に対するサービスは、サービス利用者が作成した申請書類について一般的な改善案を提示するなど、法第1条の3第1項第4号における「相談」の範疇となる行為である限りにおいては、法第1条の2第1項に規定する「他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類……その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成」することには、当たらない

新事業活動に関する確認の求めに対する回答の内容の公表 令和4年2月16日回答

少し分かりにくいと思いますが、行政書士でない人も「相談の範疇になる行為」であれば、行政書士法第1条の2第1項の「書類の作成」に当たらないということです。
つまり行政書士以外は『相談であれば良いが、作成になると駄目』だということです。

また、『相談』の範囲ですが、同じ『総務省の公式見解』の中にある記載を抜粋しておきます。

法は、第1条の3第1項第4号において、「前条の規定により行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること」を非独占業務と定めており、ここにいう「相談」とは、依頼者の趣旨に沿って、どのような書類を作成するか、書類にはどのような事項を記入するか等について、質問に対し答弁し、指示し、又は意見を表明する等の行為を指す

新事業活動に関する確認の求めに対する回答の内容の公表 令和4年2月16日回答

まとめ

まとめますと、有償支援の場合、法律面から見ると

  • 申請書類の作成➡️行政書士のみ
  • 申請書類への相談・助言➡️誰でも可能
  • 提出行為➡️誰でも可能

ということになりますが、補助金独自の規制も考慮しますと

  • 申請書類の作成➡️行政書士のみ(補助金独自の規制には注意)
  • 申請書類への相談・助言➡️誰でも可能
  • 提出(電子申請)行為➡️本人のみ(法律違反ではないが、多くの補助金で独自に規制されている)

ということになります。
『法律面』と『補助金独自の規制』のどちらもしっかりと把握して、支援者と連携を取ることをお勧めいたします。

当問題はかなり複雑で様々な見解がありますので、あくまでイメージを掴むための参考程度にお考えください。申請者や支援者としては、納得できない事があっても、公募要領に従うことが安全策となります。

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