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行政書士が認定支援機関になるには
今回は『認定支援機関のなり方』を少し解説してみたいと思います。
といっても行政書士である私が、実際に登録までにどのような事をしたのかを体験記のような感じで書いていきますので、もし「自分も認定支援機関に登録してみたい」という方がいらっしゃれば参考にされてみてください。
注意:
私が登録したのは2023年2月ですので、その前年における条件となります。ご了承ください。
行政書士は認定支援機関になるのが大変です
まず、認定支援機関(認定経営革新等支援機関)になるには、現在保有している『資格』によってハードルが随分違います。
前提条件として、認定支援機関になるには『要件①』と『要件②』をクリアする必要があります。(要件の中身は一旦置いておきます。一応要件③もあります。)
まず『税理士法人、税理士、弁護士法人、弁護士、監査法人、公認会計士、中小企業診断士』であれば、『要件①』をクリアしていると見なされます。
つまり上記以外の者は『要件①』からクリアを目指さないといけませんので、行政書士は『要件①』からのチャレンジとなります。
要件①をクリアするには
『要件①』をクリアするには、『中小企業大学校で行われる研修(経営改善計画策定支援研修 理論研修)』を受けて、最終日に行われる試験に合格する必要があります。
→『中小企業大学校公式サイト』
経営改善計画策定支援研修 理論研修とは
この『経営改善計画策定支援研修 理論研修』(以下「理論研修」と呼ぶ)の受講が、かなり大変でした。
その理由を挙げていきます。
①東京校と関西校でしか開催されていない
研修は『中小企業大学校』という所で行われます。
中小企業大学校は全国に9校ほどあるのですが、理論研修があるのは「東京校」と「関西校(兵庫県)」のみです。
私は福岡県に住んでいますので、そのどちらかまで通わなければいけませんでした。
私は関西校で受講しましたが、兵庫県の福崎町(姫路から北に電車で30分ほど)という所に関西校はありますので、必然的に新幹線(プラス電車とタクシー)で通うことになりました。
②開催数が少ない
この理論研修は、東京校では年3回、関西校では年1回しか開催されておらず、そう頻繁に受けられるものではありません。
③受講申し込みは早いもの順
受講の申し込みはメールで行うのですが、先着順で埋まっていきます。
定員は30〜40名ほどですが、非常に人気のある研修のため、メール受付開始時間から20〜30秒ほどで満席になってしまうそうです。
ですので、募集開始時間になったらすぐに送信ボタンを押せるように準備しておかなければいけません。
私の場合は関西校希望でしたので、少しでも遅れたら次のチャンスは1年後になってしまうところでした。
④研修期間が長い
研修は合計120時間ほどあります。
その120時間を4ヶ月に分けて受けることになります。
月のうちのどこかの週の火曜(又は月曜)から金曜日に研修が行われるので、4ヶ月間連続で、どこかの週は兵庫県に行く必要がありました。
もちろんその期間も仕事はあるわけで、スケジュール調整に非常に苦労いたしました。
⑤研修費用も高い
研修費用は試験費用含めて106,000円ほどでした。
これに加えて交通費、宿泊費、食事代がかかるので、トータルの費用としては、中々のものになります。
また、兵庫県に行っている間はあまり仕事が出来ませんので、収入の方も自然と下がってしまいます。(宿泊は関西校内に宿泊施設があるので、一泊3,000円弱で宿泊できます。食堂もあるので基本缶詰状態です。)
ちなみに関西校の宿泊施設は、個人的には快適でした。
ただし自然に囲まれているので、虫がたくさんいます。虫が苦手な方はストレスを感じるかもしれません。また、冬は乾燥が激しいです。それに、徒歩圏内には何もないので基本的には施設の中から出ることなく過ごします。
ですが、「大浴場がある」「自然が気持ちよく空気が美味しい」「食堂のご飯が美味しい」「部屋にテレビがなく勉強に集中できる」等、良い点も沢山ありました。勉強するにはうってつけの環境かと思います。
⑥レベルが高い
研修内容は非常にレベルが高かったです。
予備知識が不足していると、『何も分からないまま時間が過ぎていく』ことにもなりかねません。
せめて簿記3級程度の知識は持っておいた方が良いと思いました。
またパソコンスキルも必要となります。エクセルをある程度使いこなせていると研修で役立つでしょう。
発表機会も多いので、発表スキルもあった方がいいですが、全員が発表するわけではないので、どうしても苦手な方は得意な人に任せましょう。
⑦9割以上の出席が必要
120時間の研修のうち、9割以上に出席しなければ、研修修了の認定を受けることができません。
私は2022年のコロナ禍での受講でしたので、体調管理にはかなり神経を削りました。
体調を崩して1週でも参加できなければ、苦労が水の泡となってしまいます。
⑧試験が難しい
最終日に行われる試験に合格しなければ『要件①』はクリアできないのですが、この試験も難しかったです。
しかし、研修内容をしっかり勉強していれば合格はできると思います。(肌感覚では私が受講した時は8割くらいの方が受かったのではないかと思います。)
ただし、研修を受けることで、普段の業務も忙しくなり、勉強をする時間がなかなか取れませんでした。
しかも研修ごとに3週間ほど空くので、研修内容を忘れてしまいます。
ですので、『しっかりと復習して勉強すること』ができれば、合格は難しくはないと思います。
以上のように、理論研修は様々な理由で大変なのですが、実は『要件①』を免除できる方法もあります。
要件①の免除方法
要件①(理論研修)の免除方法とは『主たる支援者として関与して、認定を受けた計画が3件以上あるか』という事です。
『計画』とは下記のものになります。(時期によって違うと思うのでHPで確認してください。HPは後ほどご案内いたします。)
「経営革新計画」、「経営⼒向上計画」、「地域資源活⽤事業計画」、「異分野連携新事業分野開拓計画」、「農商工等連携事業計画」、「中小企業承継事業再⽣計画」、「中小企業活性化協議会(旧:中小企業再⽣支援協議会)の関与する再⽣計画※」、「ものづくり・商業・サービス⽣産性向上促進補助金(令和元年度補正事業以降)」等が挙げられます。ただし、「経営⼒向上計画」については、最⼤1件までしか実績として認めません。
経営革新等支援機関の認定(更新)基準についてより
この中では「経営革新計画」「経営⼒向上計画」「ものづくり補助金」あたりは補助金支援者であれば、やった事があるかと思います。
実は私もこの方法で免除しようかとも考えたのですが、「自分の知識不足を補いたい」という想いがあり、大変かもしれないが理論研修を受けることとしました。
理論研修は受けた方がいい?
それでは理論研修は受けた方がいいでしょうか?それとも免除した方がいいでしょうか?
私の答えは『受けた方がいい』です。
その理由はやはり『レベルの高い知識と経験が得られる』ことと、『素晴らしい仲間に出会える』ことです。
レベルの高い知識と経験が得られる
正直に言って研修のレベルは本当に高く、付いていくのが精一杯でした。
それもそのはずで、研修内容は『経営改善計画策定支援』です。
実は多くの研修参加者の目的は『補助金申請支援のために認定支援機関になりたい』だと思うのですが、研修の目的は『経営改善計画を策定できるようになる』というものです。(認定支援機関のメイン業務はどちらかというと経営改善計画策定支援だそうです。)
経営改善計画を初めて聞いた方も多いと思いますが、経営改善計画とは簡単にいうと『倒産する恐れがある中小企業の経営改善計画書を作り、金融機関に対し、金融調整を申し込む』といった内容です。
ピンとは来ないと思いますが、その内容は補助金申請より遥かに高いレベルを求められるので、「そんな事全く知らなかった。目から鱗。」みたいな事が沢山ありました。(そのため認定支援機関でも経営改善計画策定支援ができる人は少ないそうです。)
レベルが高いという感想は、参加している行政書士だけでなく、中小企業診断士、司法書士、社労士、コンサルタント、金融機関等の受講者皆が思ったことのようです。(中小企業診断士は理論研修は免除されていますが、勉強のために参加される方もいます。今回は税理士の方はいませんでしたが、税理士の方でも知らない事が結構ある内容だそうです。ちなみに講師は毎月変わるのですが、企業再生に取り組んでいる会計士の方が多く、講師のレベルは非常に高かったです。)
逆に言えば『補助金申請支援だけをやる』なら、そこまでの知識は必要ないかもしれませんが、中小企業支援をトータルで行うなら必要な知識だと感じました。
素晴らしい仲間に出会える
理論研修に集まっている人たちは『やる気がある人たち』です。
こういうと、免除を選んだ人がやる気がないように聞こえてしまうかもしれませんが、もちろん違います。
しかし、先ほど説明した理論研修の大変さを受け入れてまでやりたい、という人たちの集まりですので、やはりやる気が非常にありました。
また能力がとても高い人も多く、大いに刺激を受けることができました。
研修ではグループ演習も多いため、仲良くなりやすいのですが、全国に同じ志を持った仲間が増えた事は非常に有意義でした。
要件②をクリアするには
それでは次に『要件②』をクリアする方法です。
『要件①』をクリアしている方(指定されている資格保持者or指定された計画支援が3件以上or理論研修完了と試験合格)は、『要件②』に進みます。
『要件②』の1つ目の条件は
「中小企業・小規模事業者に対する支援に関し、3年以上の実務経験を有するか」
というものです。
具体的にどういう実務経験かというのは、経済産業省関東経済産業局HPの経営革新等支援機関の新規申請についてページの「経営革新等支援機関の認定(更新)基準について」というファイルをご確認ください。
(サイトは変更になる可能性があるので、リンクを貼っておりません。検索してお調べください。)
ちなみに行政書士に関する記述はありませんでした。
ですが、コンサルタントに関する記述はありましたので、コンサルタント業務の経験がある行政書士であれば、この要件をクリアできる可能性もあるようです。
この1つ目の条件をクリアしていた場合、さらに
「中小企業・小規模事業者に対する支援に関し、法定業務に係る1年以上の実務経験を有するか。」
という条件が必要になります。
先ほどと似ていますが、こちらも「経営革新等支援機関の認定(更新)基準について」のファイルに具体的な内容が記載されています。
これもクリアできれば、『要件②』はクリアです。
この2つの条件のどちらかでもクリアできない場合は、もうひとつの方法として『中小企業大学校で行われる研修(経営改善計画策定支援研修 実践研修)』を受けて、最終日に行われる試験に合格する必要があります。
先ほどの理論研修と似ていますが、今度は『実践研修』となっています。
経営改善計画策定支援研修 実践研修
以下、『実践研修』と呼びますが、実践研修は理論研修ほどは大変ではありませんでした。
特徴をいくつか挙げていこうと思います。
①2日間の研修
理論研修は17日間でしたが、実践研修は2日間で行います。
実践研修という名前通り、内容はグループ演習が主なもので、それほど大変な内容ではありませんでした。
理論研修でやった演習をもう一度実践するといった感じでした。
②全国の大学校で開催
理論研修は東京校と関西校の2校でしたが、実践研修は全国の中小企業大学校で年に数回開催されています。(全ての大学校であるわけではなさそうです。)
理論研修より受講チャンスは多くなります。
③試験は難しい
試験内容は理論研修の試験よりさらに難しくなります。(ボリューム感がアップするイメージです。)
さらに研修が2日間しかありませんので、2日間の研修では試験内容を到底カバーできません。
理論研修から受講していれば、ほとんど習った事のある内容でしたが、実践研修からの参加者は知らない事もあって、面食らうかもしれません。
(多くの中小企業診断士の方や税理士の方は実践研修から参加されている印象でした。)
この実践研修を修了して、試験に合格すれば、認定支援機関への登録はもう少しです。
試験結果は試験後2〜3週間で郵送されてきます。
要件③
要件②までをクリアすれば、残りは要件③です。
「要件③とか聞いてないけど・・・」
と思われたかもしれませんが、要件③はご自身の事業収支に関するものです。
要件②までをクリアした後に、電子申請システムから認定支援機関の登録申請を行うのですが、過去の事業実績を入力して条件をクリアしなければいけません。
基本的には黒字3期分が必要みたいですが、その条件を満たしていなくても、収支計画の提出等で登録できる可能性はあるので、まずは申請してみて、不備の修正連絡を待つのが良いでしょう。
これらの条件をクリアすれば、晴れて認定支援機関への登録となります。
経営改善計画策定支援研修の試験内容
経営改善計画策定支援研修の試験内容についても少し触れておこうと思います。
どんなテストが出るかは、回によって違うかもしれませんが、とりあえず下記の事についてはしっかり勉強しておいた方がよいと思います。
- 限界利益率
- 損益分岐点
- 経営改善計画の数値目標
- BSからCFへ
- 資金繰り表
- プロラタ
- 繰越欠損金
- 実態バランス
- 正常収益力
- 債務者区分
- 経営戦略フレームワーク
- フリーキャッシュフロー
- 財務指標計算式
といった感じです。
何のことだかさっぱりな方は理論研修を受ける事をお勧めします。(私も理論研修を受けるまではさっぱりでした。)
基本的には理論研修をしっかり受けて復習していれば大丈夫かと思います。(実践研修の内容だけでは難しいだろうなとは思いました。)
また、計算問題も多いですので、計算ミスにも注意いたしましょう。
理論研修のテストでは時間は余ると思いますが、実践研修のテストでは時間は足りなくなると思います。(計算が多いので。)
おすすめ書籍
最後に、経営改善計画策定支援研修を受講するのに(または受講したあと復習として)、私が読んでおすすめだと思った書籍を紹介しておきます。
『社長のための「中小企業の決算書」財務分析のポイント』安田順 著
『銀行からの融資 完全マニュアル』川北英貴 著
これらの書籍は大変分かりやすく、研修の復習とテスト対策で役に立つと思います。(研修前に読んでも分からないかもしれませんが。)
おすすめですので、ぜひ購入して読んでみてください。